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Special Edition
  最先端技術に翻弄されないための12のヒント 最終回
  優生思想って何?


生命の優劣が
科学によって比較される時代

 これまで11回にわたって、最先端技術と自分自身の体の間にあるどうしようもないジレンマについて一緒に考えてきました。
 自分の体は自分のものなのだから、どうしてもいいんじゃないの? 誰かに迷惑をかけるわけではないのだから…という考え方もひとつの選択肢です。しかし、私たちが自分の体を自分で自由に決められることがいいことなのか、という疑問を抱えて生活をしているのも事実でしょう。

 これまでの連載では、いろいろな最先端技術を話題にしてきましたが、実はその中核をなしていたのは、ただひとつのことでした。それは「優生思想」という考え方です。優生学ともいいます。この学問は、進化論をとなえたダーウィンのいとこ、フランシス・ゴルトンという人物が始めたものといわれています。彼が1883年に書いた論文『人間の能力とその発達の研究』のなかで、この優生学という言葉は初めて使われました。以来100年以上、私たちの生活は優生学と切っても切り離せないものとなりました。ゴルトンは人間の才能が遺伝によるものなのかどうかを研究するために、さまざまな家系を調べ、それを統計的な方法で分析しました。そして、犯罪をしやすい家系があり、その家系の人からは優秀な家系よりも、たくさんの子どもが産まれている、と指摘しました。

 この主張は現代科学の視点からみると非常に雑な推論といわざるを得ないのですが、当時の学者たちの心をつかんだのです。そこには、ダーウィンの進化論を受け入れざるを得ない事態になっていくという時代背景もありました。進化論が受け入れられるにつれて、「神が人間をつくった」という伝統的な考え方が崩れていきました。神がつくったのならば、一般の民衆は自分の体を自分のものとして自由気ままに変えることはできない、と考えます。ところが、神が人間をつくったのではない、自然淘汰という競争が人間をつくったという。ならば、何を信じるべきか…、という不安。その不安の隙間に、優生学は心地よく響きました。人間社会には優れた者とそうでない者があり、優れた者同士が子孫をつくれば社会は発展する、という主張です。

 優れた子どもとそうでない子ども。これを科学的にはっきりと確定できる。この考えが、意識しようとしまいと私たちの心の中にはっきりとあるのではないでしょうか。それが優生思想のひとつのあらわれです。ある人はそれを「内なる優生思想」と呼んでいます。仮にこの優性思想が人間として間違った思想だったとしても、その考えを全否定することはできません。なぜなら誰もが、健康な子どもを願います。

 だからといって私たちは、病気の子どもは産まれるべきではない、などと考えたりはしないでしょう。たとえそれが本音であったとしても、なかなか大きな声では言えません。ひと昔前であればそこで議論は終わっていました。ところが、本音とたてまえの間に、優劣を証明してしまう科学的な裏付けが入り込むとなると…。科学知識が増えるほどに、私たちは生命を比較し、優れた者と劣った者をみつけだしてしまうのです。そこに現代に生きる私たちのジレンマがあるのでしょう。医療技術が進歩するにつれて、見たくなかった自分の内なる優生思想を見つめなければならない機会が増えていきます。

 21世紀も20世紀のように、先端技術が神のごとく私たちを支配するのでしょうか? それとも技術に振り回されることなく、病気の人も健康な人も、あるがままに生きる社会をつくりあげていくのでしょうか。その行方は、まだ誰にも見えていません。


2001年12月25日

石井 政之
プロフィール
 医療、看護、バイオテクノロジーをテーマに取材をしているフリーライターです。硬いテーマを追いかけることが多いので、ジャーナリストといわれる機会が増えました。でも、なんでも書く猥雑さを忘れずに仕事をしていきたいと思っています。10年以上「顔」にこだわって取材をしています。その成果を『顔面漂流記』(かもがわ出版)を昨年出版しました。趣味はジョギング。目下の悩みは、忙しくて空手の稽古に行けないことでしょうか。
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