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Special Edition
  最先端技術に翻弄されないための12のヒント 第10回
  インフォームド・コンセントの限界


医師と患者に生じる
コミュニケーションのギャップ

 医療の現場では、医師が患者に正確な情報を説明したつもりでも、実際はその正確な意味が伝わっていない場合があるようです。たとえばガン告知。医師は患者にガンであることを告げます。その後、どのようなタイプのガンで、どのような治療をすればいいのかを説明していきます。しかし、「ガンである」という説明を聞いた瞬間に、混乱してしまう患者さんは多いのではないでしょうか。このような反応は決して恥ずかしいことではありません。生死にかかわる病気を宣告されて、冷静でいられる人は極めて少数だと思います。
 ガンという、今では身近でありふれた病気をインフォームド・コンセントするときでさえ、このようなコミュニケーションのギャップが医師・患者関係に生じているのです。最先端医療の現場でインフォームド・コンセントが成立するかどうかは極めて難しいと言わざるを得ないでしょう。
 出生前診断、人工授精、クローン技術−−これまで本連載で説明してきた言葉を理解した上で、これらの技術を使うか、使わないかというインフォームド・コンセントを受けるべきだと思います。では、それは現実的なことなのでしょうか。
 ある公立研究機関は、定期健康診断で地域住民から採取した血液を、その住民に無断でゲノム解析をしていました。これが倫理面で問題があると報道され、住民への説明会が開催されました。その席で、住民は「遺伝子って何?」と発言しているのです。血液細胞から遺伝子を取り出し、その遺伝子情報(ゲノム)を解析することで、どのような病気になる可能性があるかが明らかになります。これは病気を予防するためには喜ばしいことですが、その情報はプライバシーでもあるのです。個人を特定し、どのような病気をもち、これからどのような病気になる可能性を秘めているのかという個人情報の塊、それが遺伝情報です。個人の遺伝子を解析することで、病気の予防研究をすることができるというインフォームド・コンセントは想像するだけでやっかいな作業です。しかし、患者に説明し、その研究への参加を納得してもらい、書面での同意をとっておかなければ、倫理問題になり、研究のグローバルスタンダードから遅れてしまうのです。
 医師も人間です。いいにくいこと、やっかいな説明をはっきり言わないこともあるでしょう。患者は患者で「病気の告知」「症状の悪化」など、自分にとっていやな情報は聞きたくないものです。最先端の知識を必要とする高度な医療が自分の身に施されようとしているとき、「それで治るのですか?」というシンプルな質問だけになってしまうのが実状ではないでしょうか。
 これが最先端医療におけるインフォームド・コンセントの限界なのかもしれません。最先端の医療を受けようとしているとき、患者としてできることは、文書をもとにして説明を求めることです。そしてあわてて決断をしないこと。友人や家族とともに考えながら決めましょう。それが、自分の納得する医療を受けるポイントです。


2001年11月26日

石井 政之
プロフィール
 医療、看護、バイオテクノロジーをテーマに取材をしているフリーライターです。硬いテーマを追いかけることが多いので、ジャーナリストといわれる機会が増えました。でも、なんでも書く猥雑さを忘れずに仕事をしていきたいと思っています。10年以上「顔」にこだわって取材をしています。その成果を『顔面漂流記』(かもがわ出版)を昨年出版しました。趣味はジョギング。目下の悩みは、忙しくて空手の稽古に行けないことでしょうか。
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