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Special Edition
  最先端技術に翻弄されないための12のヒント 第8回
  クローン技術はどこまで利用されていくのか


死生観を覆す技術?

 出産を楽しみにしている夫婦の決まり文句は、昔から「五体満足で健康なら男の子でも女の子でもいいんですよ」でした。
 現代医療はこのような人間の欲求を実現するためにある、といってものかも知れません。病気をなおしたい、健康な生活を送りたいという欲求も、とりたてて議論する問題ではないように思えます。
 いままで、産まれてくる子どもが五体満足かどうかは、神のみぞ知る領域でした。ところが出生前診断などの先端技術によって、胎児の様子がわかるようになり、受精卵診断をすれば遺伝性の病気になる可能性も、ある程度わかるようになってしまいました。

 絶対に病気にならない人間はいません。また、人は必ず年をとっていきます。「病気にならず、いつまでも若々しい完全な肉体」はあり得ないのです。ところが、クローン技術の登場によって、その考え方を覆そうという人たちが現れました。
 クローン技術は「完全な肉体」を求める人たちにとって、いま最も注目されている技術のひとつとなっています。自分の遺伝子とまったく同じ遺伝子をもった「もうひとりの人間」をつくるビジネスが生まれました。
 アメリカに本部があるカルト教団「ラエル・ムーブメント」が、クローン人間製造を請け負う会社「クロネイド」を設立したのです。
 費用はクローン人間1件について20万ドル。たいへんな高額ですが、世界中から100件を超える問い合わせがあったといいます。その多くは、自分たちで子どもをつくることができない不妊症で悩む人や同性愛の人たちからのものでした。
 教団は、子どもの細胞を保管する「クローン保険」も計画しています。子どもが事故や病気で死亡したときのために、クローンを用意しておくのです。
 これらの計画は、イギリスでクローン羊ドリーが誕生してすぐに発表されたものでした。教団の教祖ラエル氏は、「死が目前となった人のクローン人間をつくり、その新しい肉体にその人の記憶と性格を移すことができる、それは永久の生命、不死を意味する」と主張しています。

 このアイデアは、2001年の正月映画として公開されたアメリカ映画「6d(シックス・デイ)」で映像化されています。人間のクローンだけが禁止された近未来社会で、ひそかにクローン人間をつくるバイオ企業があり、そこではクローン人間に特殊な電気信号を与えることで「古い肉体」から「新しい肉体」へ記憶と性格がコピーされていきます。
 クローン技術は、太古の昔からあった「不老不死」という人間の欲望を実現する魔法なのでしょうか。それとも、人間の死生観を覆す、神への挑戦なのでしょうか。世界中で論争が始まっています。21世紀に生きる私たちはその論争から無関係ではいられないのです。


2001年10月22日

石井 政之
プロフィール
 医療、看護、バイオテクノロジーをテーマに取材をしているフリーライターです。硬いテーマを追いかけることが多いので、ジャーナリストといわれる機会が増えました。でも、なんでも書く猥雑さを忘れずに仕事をしていきたいと思っています。10年以上「顔」にこだわって取材をしています。その成果を『顔面漂流記』(かもがわ出版)を昨年出版しました。趣味はジョギング。目下の悩みは、忙しくて空手の稽古に行けないことでしょうか。
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