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  最先端技術に翻弄されないための12のヒント 第6回
  男女産み分け


男女比にも影響が…

 男の子と女の子、どちらがいい? 妊娠して出産を待つ夫婦の間で交わされるであろう幸福な会話です。子供が産まれた直後、産婦人科医が母親に「元気な男(女)の子ですよ」と声をかけ、母親は出産後の痛みに耐えながら、子供を抱きかかえる…。そんなシーンがこれからなくなるかもしれません。いや、すでに一部の医療現場ではなくなっているのです。
 男の子と女の子の産み分け技術が誕生しているからです。

 産まれてくる子供の性は、精子と卵子が受精する瞬間に決定されます。女性の性染色体はXX。男性はXYです。性染色体とは性別を決定する遺伝子のことで、減数分裂といって、それぞれの染色体が2つに分かれて細胞分裂をしていきます。女性の卵子はすべてX染色体を1個もち、男性の精子はXとY染色体をもつものが半分ずつできます。
 卵子がX染色体をもつ精子と受精すると受精卵はXX、つまり女性になり、Y染色体をもつ精子と卵子が受精するとXY、つまり男性になるのです。そこで、子供の性を産み分けするためには、精子をX染色体をもつものと、Y染色体をもつものとに分離して、男の子が欲しいならば、Y染色体をもつ精子と卵子を受精させる、女の子が欲しいならばX染色体をもつ精子と人工受精させればよいのです。

 男女の産み分け技術のためには、精子の選別方法の開発が必要でした。さまざまな方法が開発されましたが、日本では1983年頃からパーコール法というXY染色体をもつ精子の分離と人工授精がおこなわれてきました。1986年、日本産婦人科学会は「パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床応用に対する見解」を発表し、男女の産み分けには実施しないでほしい、と産婦人科医に通知しています。100%の産み分けができないことと、その技術の安全性が確立していないことがわかったからです。ただし、重い伴性劣性遺伝性疾患となる子供の妊娠を避けるためならば許される、という例外をつくっています。伴性劣性遺伝性疾患とは、母親がその病気を子供に遺伝させる遺伝子をもっていて、しかもその病気が男の子にしか現れないという病気のこと、たとえば、進行性筋ジストロフィー、血友病などの病気のことです。どちらの病気も、子供の時から専門的な治療を受けないと生命が危険にさらされてしまいます。
 卵子を調べて、母親がこれらの病気を子供に遺伝させる可能性がある場合には、産み分け技術を使ってよいということです。
 これは単純な男女産み分けというよりも、遺伝性の病気の子供が産まれないための男女産み分け、ということになります。

 遺伝性疾患のある子供は産むべきではないのでしょうか。社会的なコンセンサスがないまま産み分けが進められていくことは、倫理的に問題があるという意見があります。
 さらに、男女産み分けは男の子が欲しいから、女の子が欲しいから、という理由だけでも進めていいのでしょうか。
 たとえば韓国では1980年代、超音波などの出生前診断によって女の子の中絶が盛んにおこなわれました。そのために、男女の出生比率に大きな差がでてきたため、1987年から男女産み分けのための胎児の性別判定は法的に禁止されました。夫婦の望みを叶えることが、社会全体の男女比に影響を与えてしまったのです。
 技術がどんなに進んでも、男女の産み分けは、神の領域なのかもしれません。


2001年9月25日

石井 政之
プロフィール
 医療、看護、バイオテクノロジーをテーマに取材をしているフリーライターです。硬いテーマを追いかけることが多いので、ジャーナリストといわれる機会が増えました。でも、なんでも書く猥雑さを忘れずに仕事をしていきたいと思っています。10年以上「顔」にこだわって取材をしています。その成果を『顔面漂流記』(かもがわ出版)を昨年出版しました。趣味はジョギング。目下の悩みは、忙しくて空手の稽古に行けないことでしょうか。
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