|
生殖技術の進歩が生み出した
複雑な問題
今年5月、長野県下諏訪町にある諏訪マタニティクリニックの根津医師が、姉夫婦のために妹が代理出産したということを明らかにしました。アメリカなどでは妊娠・出産を他者に依頼する代理出産は増えていますが、日本で公表されたのは初めてだったために波紋を広げました。
代理出産は日本では認められていません。「代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する」と昨年12月の厚生省(現在の厚生労働省)の審議会で、代理母禁止の方向が決まったのです。
今回の代理出産は、妹が善意で姉のために子供を産んだ、ということです。しかし、善意ならば許されることなのでしょうか。
6月29日、不妊治療に直面している当事者たちが「緊急ティーチ・イン 代理出産 何が問題か」を開催しました。これによって明らかになった代理出産の問題点とは、一体どんなことなのでしょうか。
パネリストの石井美智子氏(東京都立大学法学部教授)は代理母を禁止する方向を出した厚生省の審議会委員のひとりです。「代理母は24時間10ヶ月の間、全人格的に拘束されるので、単なる労働ではありません。しかも、代理母は出産したらその子供に母性を持ちます。それを全面的に否定していいのでしょうか?」と代理母の人権が保障されるべきと発言しました。
江原由美子氏(東京都立大学人文学部教授)は「代理母は、女性を出産の道具として扱う技術」とフェミニズムの立場から批判をしました。「子供を産まない人に、社会がマイナス評価をしているのではないでしょうか。体外受精で子供を産んだ人の多くが差別されるのではないか、と恐れています。産んだ母親を大切にする社会にすべきです」
柘植あずみ氏(明治学院大学社会学部助教授)は「不妊治療で子供ができて幸福になった人も多くいます。しかし、不妊治療によって子供ができなかった大勢の人を無視しているのではないでしょうか」と発言しました。子供をあきらめることによって、新しい人生をスタートできることがあります。しかし、代理母出産のような技術の進歩は「夢のような技術によって、私にも子供ができるかもしれない」という希望をもたせて、結果として、不妊で悩む女性に子供のいない人生を選べないような圧力になるかもしれない、と強調しました。
不妊、代理母問題の専門家3人も、その問題の複雑さを指摘して、はっきりと代理母をすべてなくせばよい、とはいい切れないようでした。
不妊の当事者でライターの鈴木良子氏は、代理母出産のような「生殖技術は患者に希望をちらつかせて、新たな混乱と葛藤を引き起こしているだけかもしれない」と指摘します。もし、生殖技術が進歩しなければ、代理母という複雑な問題は現れませんでした。これからも、私たちは技術に振り回されつづけるのでしょうか。その答えはまだ明らかになっていません。
2001年8月27日
|