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人間の健康と長寿を約束する技術
これまで11回にわたってバイオテクノロジーの発展とその影響について概観してきた。クローン人間禁止法、不妊治療、遺伝子治療、ゲノム解析技術、DNAチップ、遺伝子診断、ES細胞、再生医療、遺伝子特許など、さままざまな出来事があった。
いずれも、人間の健康と長寿を約束する技術であり、人間の生命現象を商品化することを前提として発達してきたものである。
ビジネスとは何か。ハードとソフトを商取引することである。ハードはモノとして明らかな商品。たとえばパソコンという機械だ。ソフトとは文字通りパソコンのソフトウエアでもあるだろうし、経営コンサルタントなどが所有しているノウハウでもある。カウンセリングなどのメンタルサービスもソフトのひとつといえるだろう。
20世紀末から急激に発展を続けているバイオテクノロジー産業の商品群には、ハードとソフト、そして「人体の一部」という特殊な位置づけの商品がある。
生命現象をビジネスにつなげていく、ということは医療現場ではすでにおこなわれてきた。医は仁術であるかもしれないが、生命を救うこと、怪我を治療するための治療費として医療機関は報酬をもらわなければならない。これは立派なビジネスである。医療従事者による命を救う営みが、21世紀はバイオテクノロジー産業という新しい勢力によって大きな影響を受けることになることは間違いない。
バイオテクノロジー産業の企業群はほとんど例外なく大企業である。豊富な資金力がなければ、最先端のバイオテクノロジー研究は不可能だからである。そのため、大きな利潤が期待できる病気の治療法開発に投資していくことになる。その対価を払うのは消費者である患者だ。
バイオテクノロジーは、見ず知らずの人の体の一部によって、自分の命を生きながらえさせるという側面も持っている。このような試みが世界規模でおこなわれ始めているが、これは人類史上初めてのことである。何が起きるのか、それはまだわからない。不治の病が治るかもしれないし、予測できない副作用が登場して患者を苦しめるかもしれない。最先端医療において、患者は医師からどれくらいの情報を提供されれば、その治療技術を理解して自分で選択できるのか、それもわからない。最先端のバイオテクノロジーを応用した医療におけるインフォームドコンセントは、すでに確立された医療技術を選択するときのインフォームドコンセントとはまったく違うものになっていると考えられる。
バイオテクノロジーが医療現場に入ってくることで、ひとつだけはっきりいえることがあるとすれば、普通の患者が、複雑なサイエンス用語を理解する必要に迫られたり、否応なく倫理問題に巻き込まれるということだ。受精卵の段階で将来の病気が予測できるとき、母親はどうすればいいのか。その受精卵を人間とみるなら、中絶をためらうだろう。生命になる前の、モノと考えるなら、もっと病気という欠陥のない受精卵をもう1度つくればよい、と割り切るという選択もありうる。いずれにしても、ぎりぎりの選択なのではないだろうか。決めるまで気持ちは揺れ動くはずだ。そうであってほしい。しかし、そのような選択を母親に強いることは、過酷な気がしてならない。
バイオテクノロジーは私たちの体と心をどこに連れて行こうとしているのだろうか。
2001年6月18日
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