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膨大なゲノム情報を精選する技術
バイオインフォマティクスは、バイオテクノロジーと情報技術(IT)を融合した技術である。コンピュータで遺伝子の機能を解析する技術は、その代表格だ。
DNAは、A(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)という4種類の塩基が二重らせん状につながっている。人間のDNAは約30億個の塩基配列をもっているが、それをすべて読み解いたゲノム(全遺伝情報)はAGCTの4文字がアトランダムに並ぶ無限の配列のようである。その特定の配列が、それぞれの顔の形、太りやすさ、ある病気になりやすさを示しているというが、素人にはわからない。いや、素人どころか、専門家の頭脳を持ってしても、その識別は不可能である。情報量が多すぎるのである。
そこでコンピュータが必要になる。
ヒトゲノムプロジェクトは、そのDNAの塩基配列を決定した。これはスーパーコンピュータがあったから実現したのである。しかし、その全遺伝情報がわかっても、すぐにその情報が医療に役立つわけではない。AGCTの4文字でできた「砂漠」から、針を探し出すような気の遠くなる作業をしなければならない。たとえば膨大な塩基配列情報から、糖尿病に関係した塩基配列はどこにあるのか、アルツハイマーの原因となるものはどれか、とその可能性を探る必要がある。そのときにバイオインフォマティクスの技術が必要になるのだ。
バイオインフォマティクスは生物(バイオ)と、情報技術の両方の知識がなければできない。情報技術を知らないバイオ専門家と、バイオ知識のない情報専門家が話をしたところで、まったく異なる言語で2人の人間が話すことのようで、話が通じなくなる。両方の分野の知識を持った人間が必要になるのには、このような背景があるのだ。
アメリカでは、バイオテクノロジーと情報技術に詳しい専門家を「バイオインフォマティシャン」と呼び、コンピュータによるデータ処理は彼らがやっている。しかし、それぞれの分野が細分化・高度化しているために、人材不足が深刻である。
大手製薬企業は、ヒトゲノム解析終了と同時に、バイオインフォマティクスに力を入れ始めている。
もし、バイオインフォマティクスの技術がないとどうなるのか。たとえば糖尿病に関係しそうな情報をゲノムから取り出すと、標的分子はたくさん出てくる。1つの遺伝子の配列の違いが1つの病気を引き起こすことはまれである。もし、その標的分子に対して、すべて従来の医薬品開発の方法で新薬を開発すると数兆円の費用がかかってしまう。そこでバイオインフォマティクスをつかって情報を精選することが必要になるのだ。
世界中のプログラマーやバイオインフォマティクス研究者たちが、疾患に関係した新しい塩基配列をみつけようとしのぎを削っている。その成果の一部は、
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Homology/
(米国国立バイオテクノロジーセンター)にアクセスすればかいま見ることができる。
今年になって、伊藤忠商事がバイオインフォマティクス分野を事業分野にすると発表した。三井物産、日商岩井も2001年からバイオインフォマティクスに数10億円の投資をする。ある予測によると、バイオインフォマティクス分野の国内市場は現在、約1400億円で2010年には7000億円になるという。
塩基配列の砂漠から、病気を治す情報という金の針を探すために、情報戦が展開されているのである。
2001年6月4日
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