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遺伝子診断結果は
重大なプライバシー情報
がん、糖尿病などの病気の発症する可能性を調べる遺伝子診断。患者は診断の結果を知ることで生活習慣を変えることができるため、病気の予防に効果があるとされている。また、遺伝病も診断できるので、発病に備えて人生設計をすることができる、ともいわれる。遺伝子診断はその患者のゲノムから読みとれる病気になりやすい可能性を見つけだすが、その情報をもとにしてどう考え、どう行動するかは患者本人に任される。
ただし、病気の遺伝子がみつかったとしても必ず病気になるわけではない。たった一つの遺伝子の変異が病気の直接原因になる「単一性遺伝子疾患」、複数の遺伝子変異と食生活などによって発病する「多因子性遺伝子疾患」などさまざまだ。
検査会社でつくる公益法人「日本衛生検査所協会」は4月10日、「遺伝子診断」の検査を受注するときの倫理指針を発表した。厚生労働省が遺伝子診断の指針策定を避けているため、この指針が実質的なお墨付きになる。この指針の中身だが、どういった場合に遺伝子診断が必要なのかなどの目安は示されず、結局はそれぞれの医師の判断に任された。 つまり、遺伝子診断の結果をどうするかは、医師と患者にゆだねられたのである。しかし、この遺伝子診断の結果としてでた情報の取り扱いを巡って、保険業界に激震が走っている。
2000年10月、イギリス政府の遺伝子・保険委員会は、特定の病気に限って保険会社が遺伝子診断結果を利用することを世界で初めて認めた。対象は重い神経系疾患のハンチントン病である。保険加入希望者が遺伝子検査を受けていたら、保険会社はハンチントン病かどうかを聞くことができる。加入希望者に答える義務はない。だが、回答を避けたならば、その病気になる可能性の高い人、つまりリスクの高い人、と判断される。
遺伝子診断の結果は、重大なプライバシー情報なのである。親族に乳がん患者がおり、遺伝子診断によって、乳がんになりやすい確率が極めて高い、と判定された人がいたとしよう。その人は、その情報をごく親しい人以外には、誰にも話したくはないだろう。そして将来のために、乳がんのための保険に加入したいと考えるかもしれない。これは自動車運転者が、保険に入る感覚と変わらない。ところが保険会社にとってその人は、加入前から保険金の支払いが予測できる人、すなわち利益を生み出さない人なのだ。加入を拒否すれば、損失を避けることができる。このような加入者の決断を、保険業界では「逆選択」と呼び、もっとも恐れている。逆選択が続けば、保険経営が破綻するといわれているからである。
イギリスが、ハンチントン病から徐々に情報を利用する病気の範囲を広げるかどうかに、世界は注目している。なお、ベルギーやオーストリアでは、保険会社による遺伝子情報の利用について全面禁止した。アメリカでは、歯止めをかけない方針だ。日本は、規制づくりがまだ始まっていない。
保険は、将来がわからないから成立したビジネスである。将来の病気がわかるとき、そのビジネスが存亡の危機に立たされるとはなんと皮肉なことであろうか。
患者は、遺伝子診断情報が、使い方次第で人生設計を変えてしまう力を持つことに自覚的にならなければならない。私たちはそういう時代に生きているのだ。
2001年5月7日
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