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人体の細胞組織から
移植に必要な臓器を作る技術が
求められている
他人の身体から健康な臓器を摘出して、移植するのが臓器移植である。この医療技術は腎臓、肝臓、心臓などに応用され、大勢の患者を救ってきた。ところが、世界的に臓器提供者の不足と、他人の臓器を体内に移植するときに使われる免疫抑制剤のために、患者が細菌に感染しやすくなってしまう、という問題が明らかになってきた。そのため、バイオテクノロジーを応用した人工臓器の開発が進められてきた。人工透析は、古くからある人工臓器の技術のひとつである。しかし、数日に一度、何時間も透析を受ける患者への負担は大きい。そこで、人体から細胞組織をとりだして、それを培養して必要な臓器をつくりだして移植したらどうだろうか……という技術が求められるようになった。それがティッシュ・エンジニアリング(組織工学)である。不具合をおこした部品を、新しいものに交換するような産業界の考え方が、医療の世界にも入ってきたのである。
アメリカでは、ティッシュ・エンジニアリングによって人工皮膚が開発され、商品化されている。日本でも1999年2月、国内で初めてヒトの組織の製造販売をおこなうベンチャー企業、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(略称J-TEC)が設立され、名古屋大学医学部口腔外科の上田実教授が開発した培養皮膚技術の商品化を手がけている。皮膚の培養には、2つのタイプがある。他人の皮膚を培養して、別人に移植するための「同種培養皮膚」と、患者本人の身体から取り出した皮膚組織を培養して、治療が必要なときに移植する「自家培養皮膚」である。「自家培養皮膚」は自分自身の皮膚組織なので、移植しても拒絶反応はない。自分自身の血液を輸血用に保存して、緊急時に輸血する「自己血輸血」と同じ発想である。J-TECは「同種培養皮膚」で救急処置をして、最終的には「自家培養皮膚」によって、患者への治療を完成することを目指している。これらの培養皮膚は、やけどや褥創などで健康な皮膚を広範囲にわたってなくした患者に移植されている。
ところで、J-TECがさまざまな組織のなかで培養皮膚から商品化をはじめたのは、より単純な組織のほうが培養が容易だからである。血管や筋肉などを伴う肝臓、心臓などの複雑な臓器をティッシュ・エンジニアリングでつくるまでには、長い年月が必要だと予測されている。
今年3月、J-TECは、移植用の軟骨を培養する事業に乗り出すことを明らかにした。島根医科大学の培養技術を移転し、安定供給できる体制を整備しているところだという。培養軟骨技術で先行している、アメリカのバイオベンチャー企業を追いかける形だ。
厚生労働省は、再生医療を推進するための臨床研究のルール作りをはじめた。同省では、再生可能な組織として、毛髪、脳細胞、食道、気管、動脈、心臓弁、末梢神経、膀胱などをあげている。実現すれば、加齢や事故によって機能が低下したりなくなってしまった組織を、工場で受注生産して治療する時代がやってくる。
ただし、人間の細胞組織を取り扱う技術だけに、自動車やパソコンなどの工業製品以上に厳しい品質管理システムが求められることになる。患者が再生医療の恩恵を受けるまでにはもう少し時間が必要である。
2001年4月23日
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