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Tシャツ研究が明かす愛の化学 (上)
男と女のケミカルな引力

体臭で遺伝子をかぎ分けている?

 男と女の社交の舞台裏を探るには欠かせない、と感心してしまうTシャツを使った科学研究があるのを、みなさんはご存じでしょうか。まず妙齢の被験者に、無臭石鹸で髪と体をよく洗った後、やはり無臭の石鹸で洗った綿100%のTシャツを着て寝てもらいます。寝るときに使うシーツや枕カバーもあらかじめ配布された無臭の洗剤で洗っておき、それに加えて「ひとりで寝ること、煙草や匂いの残る食事は禁止」といった指示を守ります。平常状態での純粋な体臭をTシャツに移行させる条件を整えるためです。そして他の被験者にそのTシャツの匂いをかがせ、どれくらい良い匂いがするか得点をつけてもらうのです。一見原始的な方法ですが、この研究によってわかったことは衝撃的なものでした。そのひとつが、男と女がお互いの遺伝子をかぎ分けている可能性です。

 とはいっても、すべての女性にとって等しく最高といえる遺伝子があるわけではありません。Tシャツと血液サンプルを使ったこの研究結果は、今から6年前にスイスの学者によって初めて発表されました。それによれば、女性がかぎ分けているのはMHC(major histocompatibility complex、組織適合性複合体)のタイプの違いだそうです。MHCというよりもHLAと呼んだ方がなじみ深いかもしれません。HLAは白血球の血液型として知られています。Tシャツを着た人のHLAタイプが自分と違えば違うほど、その体臭を好ましく思ったのです。

 簡単にいえば、自分の遺伝子との組み合わせで、寄生虫などに対抗する免疫力の点で子孫の生存をより有利にする条件をかぎ分けたということになります。この傾向は性差を問わないものだったのですが、かぎ分けに失敗したグループもありました。それは経口避妊薬(ピル)を服用中の女性達でした。逆にこのグループは子孫を残すまいとしているので、MHCタイプを選り好みする必要もないわけですが。

 考えてみれば、「背が高く」「学歴も高く」「収入も高い」といういわゆる三高も、より現代社会に適応した遺伝子をもつ男を自分の子の父親にしようという女の思惑が表面化したものと受け取れないこともありません。ただ、この思惑はあまり科学的とはいえず、かといって文学的ともいえず、やはり現実的としかいいようがありません。ちなみにこのトレンドですが、働く女性が増えた今では「優しくて家事が分担できる、一緒にいてより楽な男」にシフトしつつあるというのですが、本当でしょうか。

 どちらにしろ、そういう目に見えて頭で理解できる要素に比べ、「体臭が好ましい」というケミカルな要素は、現実には「女性がセックスの相手を選ぶ時のオマケ的な役割しか果たさないようである」とオーストリアのあるTシャツ研究者は述べています。視力は抜群なのに鼻の悪いサトリもそう思います。


2001年11月5日

佐鳥 麻美
プロフィール
 不器用なことと大胆なことでは定評のあるライター。ときどき頭がお留守になり、空想の世界で遊んでいます。「あんたに母は似合わない」と言われながらも家族や仲間に支えられて長男、俊介を出産。わけあってシングル。夢中で3年が過ぎ、ああしっかり者の嫁さんが欲しい…などとつい思ってしまうこのごろです。いや、本当に欲しいものは運転免許なんですが。
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